2021年11月のオークションに関するトピックスとして時計愛好家の関心を大きく集めたことのひとつに、オークションハウスのフィリップスとクリスティーズがそれぞれロレックス「ディープシー・スペシャル」を出品したことがある。ディープシー・スペシャルは1953年から60年にかけて深海調査に参加してきた腕時計である。いくつかのモデルが製造されたものの、半球型の風防の厚さが35mmもあり着用に向かなかったことなどから量産化は見送られてきた。そんな”レア度”たっぷりのディープシー・スペシャル、今回のオークションにおけるそれぞれの落札結果をお伝えする。
No.35を出品したフィリップス
2021年11月5日と7日に「第14回 ジュネーブ時計オークション」を開催したフィリップス。この開催予定を伝えたニュースで、ディープシー・スペシャルの誕生背景などは詳報済みであるため、今一度振り返りたい方は下記をご覧いただきたい。
このリストから分かる通り、フィリップスの出品したNo.35が製造された時期はディープシー・スペシャルの短い歴史の中でも後期にあたる。なお1953年の最初の試作機では1080mの水深でテストされたのに対し、60年にオーギュスト・ピカール教授とアメリカ海軍のドン・ウォルシュ大尉とともに行われたテストは最大水深約1万911mのマリアナ海溝で行われた。時間を追うごとに耐水強度を高めたディープシー・スペシャルは、次第にプレキシガラスが厚みを増していく点も興味深い。No.35はフィリップスのオークションにおいて、105万8500スイスフランで落札された。
No.1を出品したクリスティーズ
2021年11月8日に「レア・ウォッチ」を開催したクリスティーズ。時計部門において快進撃を続けるクリスティーズは今回初めて、ジュネーブの「ライブ」オークションにおける時計の販売数100%を記録した。3時間20分で120本を売り切り、下限予想を192%上回る落札総額2280万スイスフランを記録したとクリスティーズは発表している。その歴史的なオークションで最高額の落札を飾った1本が「ディープシー・スペシャル No.1」だ。
この時計は、1953年に潜水艇トリエステ号の船体に取り付けられ、ピカール教授とともに深度3150mまでたどり着いた歴史的な時計である。真ちゅう合金製の文字盤にはコントラストの高いインデックスや、蓄光塗料の施された金メッキの金属製の針があしらわれている。経年変化がさほど見られないのは、おそらく水からだけでなく空気との接触も完全に遮った密封ケースによる成果だ。
このディープシー・スペシャル No.1は、2005年11月にクリスティーズで出品されたことがあり、当時は32万2400スイスフランで落札されている。当時とは市場の盛り上がりが大きく異なるため、今回のハンマープライスが大きく注目を集めた。最終的に同モデルは189万スイスフランで落札された。
オークションハウスの期待値を映した2本のディープシー・スペシャル
近年の高級時計における市場の変化を鑑みて、フィリップスおよびクリスティーズは実際の落札よりも高くエスティメートを設けていた。前者は120万~240万スイスフラン、後者は200万~400万スイスフランであった。これには及ばなかったものの、両者の期待値がここに見て取れた。過熱を見せる時計市場にオークションハウスも熱い眼差しを向ける今、彼らが今後もたらしてくれる新たな時計との出合いをますます楽しみにしたい。
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